7月23日(木)は前期カフェ・フランセを締めくくる,留学生の歓送会でした.
また,本年度から始めた「岡山とフランス」企画第二弾として,5月の原田シェフのお話に引き続き,pieni..ecole主催の岡野英美氏の特別講演も催しました.岡山でフランス語,フランス文化を学んで何の役に立つの….そんな正答のない問いに,学生が自分なりの答えを出せるようになれたらという想いから始めた企画です.
特別企画(その二) 岡山でフランス語の勉強して何か役に立つの~?
「岡山とフランス」第二弾
岡野英美(pieni..ecole+café店主(ちいさな大人の学校))「出石の片隅のちいさなフランスコミュニティ」
岡野氏は御自身が英語の教職に携わる傍ら,大人のための学校あるいはちいさなお教室を主催しています.出石町の一角でお店を提供し,何十種類もの授業・企画を提案されています.料理教室,フランス語教室,はたまたタップダンスやマトリョミン,トイピアノのレッスンであったり演奏会であったり.また,お店から徒歩数十秒のところでは,古い家屋の一部を利用して,しばしば写真,絵画などの展示会も催しています.多様で個性的なラインナップは,岡野氏の関心の広さと人を惹きつける魅力を反映しているのでしょう.また,今現在はNPO法人ENNOVAの代表も勤められ,旧内山下小学校の保存活動や石山公園での数々のイヴェント開催など,精力的に「まちづくり」に参加されています.
そんな多才な(多彩な)岡野氏(とその企画)ですが,意外にも(?!),フランスとの関わりは深く,想いは熱い!とのこと.年に1度はフランスにブラッシュアップに行かれるそうです.そこで,なぜフランスに惹かれるのか,どのような関わり方をしているのか,という点を中心にお話ししていただきました.また,お話の後の質疑応答も,その辺に集中したようです.
岡野氏の御講演で印象に残った二,三のこと.
お話の始まりはこうです.かつて岡野氏は,自分の開いている教室でフランス語のレッスンを開催しようと,知り合いにフランス人の紹介を御願いしました.ところが,比較的長い期間,岡山に滞在するフランス語話者(フランス語圏の人)はなかなかおらず,最初に協力してもらった方はそのうち帰国してしまいました(もっとも,その方は性格的に強い人だったため,自分も他の受講者も涙を忍ばせながらレッスンを受けたとか).しかたなく別のネイティヴを探していたところ,書店の片隅でフランス語「らしき」言葉が聞こえてきました(「らしき」というのが謙虚ですね).で,声をかけたら「やっぱり」フランス語圏の人で,即座にプロポーズ(フランス語でproposer「提案する」の意です,念のため).仕事を引き受けてもらうと,今度はゲキ優しい先生でまた別の涙(今度は感涙).時が過ぎこの方も去り,今度は・・・という具合に,体当たりでネイティヴをゲットし続けてこられたとのこと.これがお話の前半.ちなみに,最近御願いしているフランス人(MさんとD-Lさん)は,「こんな会ありますよ~」という,数年前に来岡した某仏語教師Nの甘言(?)に乗って,でも罠かもしれない(どんな?)と,わざわざ下見に来られた会合(カフェ・フランセ)で出会った留学生たちです.
後半は,御自身が今年の春に行かれたストラスブールについてでした.しかし,土地柄,名産,ワインそっちのけで,人との出会いと渡仏の経緯説明がお話の中心でした.そっちのけ,というのは,場所はどうでもよかったという意味では全くなく(実際,凄くお好きなようです),まずは人との出会い,そしてその人の提案に身を任せ,その地を訪れ,発見し,楽しんでいるというところに力点が置かれていたということです.つまり,一にも二にも,とにかく人との邂逅がメインで,それをこそ何より大切にしている様子がひしひしと伝わってきました.
質疑応答では,フランスではどこがお好きですかとか(答え:Milly-la-Forêt,ジャン・コクトーの壁画がある礼拝堂が有名ですね),フランスに行った時に必ず買うものとかありますかとか(答え:monoprixとかfranprixとかで普通に売っている御茶のようです),実に丁寧に,そして詳細に答えてくださいました.また,教員Nが話を振ったこともあり,現在携わっておられるNPO ENNOVAの活動についても触れられました.ENNOVAでは「まちづくり」を目的として,主に後楽園脇の石山公園や旧内山下小学校を利用したたくさんの企画を出しています.そうした数々の企画を提案し実施して行く中でも,重要なのはやはり人との出会い.
最後に,「興味があれば」そうしたイヴェントや出石のお店にも是非顔を出してください,遊びにきてくださいとのこと.これは話を締めくくる決まり文句でありながら,その実,30分にわたる,決して長くはないお話の見事なまとめになっているような気がしました.「顔を出す」「遊びにくる」という行為は,単に挨拶をするとか,ついでに立ち寄るという以上のことを意味することがあります.御講演の流れを踏まえれば,この短い表現は岡野氏との出会い,そしてその他の人との出会いを促し,新しい世界へと誘う,いわば聴衆への働きかけのように思われるのです.
実際のところ,今日のお話だけで判断すると,岡野氏と「フランス」,あるいは「岡山とフランス」を結びつける糸は限りなくか細く,偶然にすぎないように思われます.それが例えばドイツであっても良さそうだし,アメリカに置き換えても話が成立するような気もします.ところが,フランスに興味を持ち,フランス語圏の人との出会いを求め,共通の利害を探りながら,お教室などの企画や旅行を実現してゆく岡野氏の姿勢からは,最終的には「~だから」という理由付けに還元されない,岡野氏の個人的な興味と好奇心がはっきり表れています.それは偶々フランスへの関心であり,それはたまたま「~さん」という名の人との出会いにすぎないのかもしれません.しかし,好奇心に身を任せ,出会いを求め,出会いの場を設定し,出会いを生かす中で,当初の興味は一層大きくなります.また膨らんだ興味と関心は,次なる機会,日々の活動(旅行や様々な企画)に還元されてゆきます.これはもう,終わりがない.岡野氏のフランス語教室に通っている生徒さんの一人は,いみじくも次のようにおっしゃっていました,フランス語の学習が仕事や日々の疲れを癒してくれるため,とにかく<続けていたい>,と.要するに,興味,関心と学習意欲,そして日々の生活は連動し,互いに刺激を与え続け,それには終わりがないということでしょうか.
「~が好き!」と,照れくさいくらい素直に表明し,そんな根拠のない(かもしれない)好奇心に忠実であろうとすると,その先に現れるのがフランス語の学習とフランス語教室のオーガナイズ.そして時折実際にフランスにまで足を運び,現地で語学を試し,また旅先で人と場所に出会い,新たな好奇心をそそられる・・・.岡野氏のお話を聞いていると,そんな出会いの循環がとても貴重で,とても簡単なもののように思えるから不思議です.出会いを仕事にも個人の興味にも接続して活用するなんて,そんなに容易くはないはず.それを楽しそうに語り,軽やかに実践してみせる岡野氏は,フランスとの特別な出会いをしただけでなく,その出会いを大切にすることを知っている人なのだと思いました.(文責:N)